2017-02-24から1日間の記事一覧

『あひる』 今村夏子 ***

読み始めると心がざわつく。 何気ない日常の、ふわりとした安堵感にふとさしこむ影。 淡々と描かれる暮らしのなか、綻びや継ぎ目が露わになる。あひるを飼うことになった家族と学校帰りに集まってくる子供たち。一瞬幸せな日常の危うさが描かれた「あひる」…

『土の記(下)』 高村薫 ***

雨の下でにわか農夫はじっと息を殺し、晴れれば嬉々として田んぼへ飛び出す。大宇陀の山は今日も神武が詠い、祖霊が集い、獣や鳥や地虫たちが声高く啼き合う。始まりも終わりもない、果てしない人間の物思いと、天と地と、生命のポリフォニー。 (「BOOK」デ…

『土の記(上)』 高村薫 ***

東京の大学を出て関西の大手メーカーに就職し、奈良県は大宇陀の旧家の婿養子となった伊佐夫。特筆すべきことは何もない田舎の暮らしが、ほんとうは薄氷を踏むように脆いものであったのは、夫のせいか、妻のせいか。その妻を交通事故で失い、古希を迎えた伊…